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博士論文 『通貨統合の政治経済分析』 |
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2006年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 国際協力学専攻 |
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内容紹介 |
博士論文では,欧州のような主権国家間の通貨統合のインパクトを「政治経済的」な観点から分析することで,通貨統合の新たな側面を明らかにすることを試みています.このアプローチが意義を持つ背景には,これまでの通貨統合理論すなわち「最適通貨圏の理論」が経済的側面のみに注目し,結果としてユーロの誕生を予測できなかったという事実があります.
最適通貨圏の理論は,「単一の通貨が流通することが最適な範囲はどのようなものか」というMundellの問題提起によって幕を開けましたが,現実の通貨圏が国家とほぼ一致していた当時の状況下では,それは「国家は最適通貨圏なのか」という問いと同値でした.これは,国境を越えた共通通貨創出の可能性を探っていた欧州諸国に,自らの行為を「経済合理性」という観点から正当化するチャンスを与えることとなりました.おのずと,この理論を用いて欧州統合の経済合理性を検討する試みが数多く成されましたが,そうした試みの大部分は欧州通貨統合に「不合格」の判定を下し,共通通貨の実現可能性に強い疑問を呈したのです.しかし,そうした判定にもかかわらず,1999年には欧州11ヶ国の通貨価値は恒久的に固定され,事実上ユーロが誕生しました.この論文では,最適通貨圏の理論がユーロの誕生を予見できなかった要因を,通貨統合のこれまで十分に考察されることのなかった側面,すなわち政治経済的側面にも求めることで,ユーロ誕生を合理的に説明する可能性を考察しました.
以上のような問題意識に基づき,本論文は国際政治と国際経済とが相互作用するような状況を想定し,その中で通貨統合のインパクトを考察しています.より具体的には,次のような世界を想定します.すなわち,各国の金融当局は,自国のマクロ経済(失業とインフレ)をコントロールすべく金融政策を駆使します.しかし,自国の政策の効果は他国がどのような政策を採用するかに依存する(戦略的相互依存性)ため,各国当局は金融政策について交渉(金融政策をめぐる国際政治)を行う余地が生じます.最終的には,より大きな交渉力を持つ国に有利な交渉結果が実現し,そのような国ほどマクロ経済目標をより高いレベルで達成することになるでしょう.このような,各国のマクロ経済状況が国際間の金融政策交渉における交渉力分布に影響されるような状況においては,通貨統合は統合参加国による集団交渉,あるいは「結託」という意味を持つことが考えられます.そこで,本論文では「通貨統合は金融政策をめぐる国際政治において統合参加国の交渉力を拡大する」という仮説をたて,理論モデルをもとにこの仮説の成立条件などを分析しました.
ここで,アメリカ,フランス,ドイツの3カ国からなる世界を想定し,仏・独が通貨統合を考慮しているとしましょう.このとき統合が行われないならば,3国はそれぞれ独立の交渉主体として交渉に臨むことになります.一方,統合が成立する場合,仏・独は単一の主体としてアメリカとの金融政策交渉に臨むことになります.したがって,通貨統合は金融政策をめぐる国際間交渉において仏・独による「結託」という側面を持ち,対米交渉力の増強(による経済厚生の改善)という利益を生み出す可能性があります.一方で,仏・独の間に様々な非対称性が存在し利害が完全には一致しない場合,同時に同盟「内」の交渉力を考えねばならず,たとえ対米交渉で利益を得たとしても両国が同時にその恩恵にあずかる保証はありません.本論文では,様々なパラメータを変化させてモデルの数値解を求めることで,いかなる条件のもとで仏・独両国が通貨統合から利益を得るかを考察しました.
分析の結果として,通貨統合が仏・独の交渉力を拡大し,両国の経済厚生を改善する効果があることが明らかになりました.また,仏・独の間に経済規模の非対称性が存在するとき,それは通貨統合の成立にとって重大な障害となるという結果も得られています.しかし,その場合でも,仏・独経済のアメリカ経済に対する相対規模が十分に大きいとき,非対称性が克服される可能性も示されました.本論文の結果が,欧州通貨統合の政治経済的観点からの合理化可能性,そして欧州通貨統合が北米や東アジアの通貨統合を誘発する可能性を示唆することを論じ,今後の展望としています.
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公式の論文要旨はこちら(PDF 144KB) |
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目次 |
第1章 序論
第2章 最適通貨圏の理論と通貨統合
第3章 通貨統合の経済的便益・費用
第4章 通貨統合の政治経済アプローチ
第5章 通貨統合と国際間通貨交渉
第6章 通貨統合の政治経済的便益・費用
第7章 まとめと展望 |
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主要な参考文献 |
Canzoneri, Mathew B., and Dale Henderson(1991), Monetary Policy in Interdependent Economies, MIT Press. |
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Eichengreen, Barry, and Jeffry A. Frieden(2001), Political Economy of European Monetary Unification, Westview Press. |
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浜田宏一(1982),『国際金融の政治経済学』,創文社. |
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