もこ
~口頭試問振り返りレポート~

 今回のレポートでは、10月23・24日に行われた第4回発表を終えてからの卒論執筆、1月24日に行われた口頭試問について振り返り たいと思う。

 第4回発表では、すでに執筆していた「乙女ゲームの歴史」と「18禁乙女ゲーム<*1> の歴史」について発表した。また、その時点では具体的に調査方法が決まっていなかった18禁乙女ゲームの分析についてもどのようにするか発表した。具体的な調査をする題材は『蝶の毒 華の鎖』<*2>に決定した。詳しくは前回アップした第4回振り返りレポートを参照していただきたい。
 第4回発表後は、9月下旬あたりから引き続き朝から晩まで国会図書館にこもり、「18禁乙女ゲームの歴史」を執筆した。この18禁乙女ゲームの歴史を執筆するのは非常に骨の折れる作業だった。なぜなら18禁乙女ゲームに関する文献は存在しないからだ。また、18禁乙女ゲームについて乙女ゲームの雑誌に記述されていたとしても、メインとして掲載されているのは全年齢向けの乙女ゲームであって、18禁乙女ゲームの情報は本当にごくわずかに掲載されている程度だった。18禁乙女ゲームの歴史について執筆するにあたって参照したのが2003年から2013年までの『B’s-LOG』という女性向けゲーム誌である。この雑誌においても、18禁乙女ゲームに関する情報は少なかったため、多くの記事から18禁乙女ゲームに関する情報や記事を見つけ出し、まとめていった。歴史は年ごとにまとめていき、その過程で、18禁乙女ゲームの傾向が「月9ドラマのようなリアルなもの」から「ダークファンタジー」な作品に移り変わっていることなどが分かった。この作業は一体いつになったら終わるのだろう、と思うほど途方もない作業だったが、私の卒論の一番明らかにしたい部分である「18禁乙女ゲームのセックスシーンはどのように作られているのか」を探る章に取り掛かるためには、できるだけ歴史をまとめる作業は、早く終わらせなければならなかった。段々と取り組むペースを掴み、11月の頭には「18禁乙女ゲームの歴史」をまとめる作業はおえた。しかしこの時点では、必要のない情報や記事の引用が多くみられ、後々の12月後半に見直し大きく校正することになった。
   またこの頃、先生の研究室に行き、本論文の要である18禁乙女ゲーム『蝶の毒 華の鎖』の分析についてどのように進めていくか相談した。当時の私は分析という言葉を良く理解しておらず、分析するにはそのためのフレームと知識、テクニックが必要とのことだったので、今回は18禁乙女ゲームのセックスシーンについて、どのように作られているのか記述し、考察することになった。それらをすることで、18禁乙女ゲームに描かれているセックスや女性の性的欲望を明らかにしようとした。
 それに取り組む前に、18禁乙女ゲームとはどのようなものかきちんと論文の中で説明する必要があったため、「18禁乙女ゲームとはどのようなものか」についてまとめることになった。そこでは、18禁乙女ゲームの雑誌『Cool-B BiiterPrincess』(宙出版、2011~)に載っているマトリクス(18禁乙女ゲームに描かれているセックスを「濃厚H」、「ラブ萌え」などといったようにカテゴリーに分けたもの)などを用いて、18禁乙女ゲームとはどのようなものか、男性向けアダルトビデオの雑誌やホームページにおいてのカテゴリー分けと比較した。他には裏名義声優<*3>、18禁乙女ゲームの画面のモザイク処理について言及した。この部分の執筆は、5日ほどで終え、すぐ、第6章の『18禁乙女ゲームのセックスシーンはどのように作られているのか』の執筆に入った。
 11月中盤から始めた「18禁乙女ゲームのセックスシーンはどのように作られているか」の執筆は、今までで一番大変だった。題材は、一度プレイしたことがあり、且つ人気があって私も大好きな18禁乙女ゲーム『蝶の毒 華の鎖』にしたのだが、それこそもう『蝶の毒 華の鎖』が嫌いになるくらい向き合った。18禁乙女ゲームに描かれているセックスシーンを細かく記述し、その後考察することで、そこに描かれている女性の性的欲望を明らかにすることが目的であった。方法は3つの段階に分けられる。まず、2台のパソコンを使い、1台のパソコンでゲーム画面を表示し、画面のキャプチャを撮りながら、もう1台のパソコンでゲーム画面に表示されるテキストやBGM、効果音、背景画についての情報を打ち込んでいった。次にゲームをプレイしながら、エンディングのセックスシーンに至るまであらすじをまとめていく。最後に、エンディングのセックスシーンがどのように作られているか見ていくために、セックスシーンの際に表示される一枚絵であるイベントCGがどのように描かれているか、どのようにセックスが展開していくのか、BGMや効果音がどのタイミングで入るのか、記述していった。それをもとに考察し、分かったことなどをまとめていったのだ。そのため、寝ても覚めても『蝶の毒 華の鎖』をプレイし、その画面を見つめ、画面に表示される情報をただひたすらパソコンのキーボードに打ちこむ日々が続いた。もう最後の方には、セックスシーンをあまりにも見過ぎて、見るのが苦痛で仕方がなかった。私は今まで、こんなにもずっとセックスシーンも見続けたことはなかった。『蝶の毒 華の鎖』以外のセックスにまつわる作品全般にも言えることなのだが、作品に描かれるセックスや物語はどれも非常に単調なのである。それがセックスを扱うポルノグラフィ作品の大きな特徴とも言えるのだが。そのためこの章を執筆していた当時の私は、精神的にかなり苦しかった。セックスシーンを見過ぎて飽きたとも言えるかもしれない。しかし、立ち止まってもいられずただただ無心に取り組んだ。
 12月第2週あたりから、論文のテーマである『18禁乙女ゲームにみる女性の性的欲望』を考えていくにあたって、避けては通れない性的欲望とポルノグラフィについての執筆に入った。それらを歴史的に語るには、フェミニズムの知識が必要不可欠だった。なぜなら、ポルノグラフィの歴史にはフェミニズムの動向が大きく関わっているからだ。私はフェミニズムについて学んだことがなかったため、ただひたすら文献を読み、性的欲望とポルノグラフィについてまとめた。性的欲望やポルノグラフィ、フェミニズムは奥が深く、急場凌ぎでまとめるにはなかなか難しかった。その時、自分がいかに大学時代怠けてきたかということを思い知った性的欲望やポルノグラフィについて語られている文献は、どれも本当に読んでいて興味をそそられもっと知りたいと思ったが、そんな時間もなく、なんとか今の自分で出来る範囲のところは書き、12月25日の仮提出までにまとめと考察以外の章は書き終えることができた。
 12月26日から28日までの3日間はまとめと考察の執筆に取り掛かった。しかし、この時点で自分の中で、うまく結論が定まっておらず、非常にもやもやしていた。しかし残り時間が迫っている故、そうも言ってはいられずとにかく結論を書くしかないと思っていた。そのため私はもやもやしたまま、以下のような結論を出し、卒論を提出した。「18禁乙女ゲームのセックスシーンにはある種の類型が存在しており、その類型がアダルトビデオなどの男性向けポルノグラフィの類型と同型である。それゆえ、女性向けポルノグラフィと男性向けポルノグラフィは同型であり、よって男女の性的欲望をほぼ同型である」という結論を述べた。口頭試問を終えた今、良く考えて振り返ってみると、非常に無理矢理考えたこじつけのような結論である。そしてこの点を見事に後の1月24日に行われた口頭試問で先生に指摘されたのだ。
 12月29日から1月8日の本提出までのスケジュールは、事前に先生から3日間おきの執筆スケジュールが組まれていた。12月29日から31日までの3日間は、付き物(卒論本文の要約、英要約、参考文献リスト、ラベルetc.)の整備をした。普段から文献などを要約するのが苦手である私にとって、自分の卒論を要約するのも非常に難しく、かなりの時間を要した。さらにそれを英訳するとなると、専門的な用語が多いため一筋縄ではいかなかった。テレビでは大晦日のカウントダウンが終わり、「あけましておめでとう」など新年を祝う声が聞こえたが、私には大晦日もお正月もなかった。それくらい余裕がなかったのだ。
 1月1日から1月6日までは、とにかく内容を見直した。全体を一通り読んで、誤字脱字のチェックをした。また、私はこの時点で論文全体が320ページを越えてしまっており、内容的にいらない部分を削る作業も並行して行った。何故なら芸術学科指定のファイルに収まらなければ提出が受理されないからだ。それでは元も子もないので、とにかく引用部分や内容的に不必要だと思った部分は削った。そして300ページくらいまで削りファイリングできるだろうと踏んで、学校に提出する前日の1月7日には全て印刷し終えた。そして全てをファイリングし、ラベルを貼り、芸術学科共同研究室に提出する用と、教務課に提出する用の計2冊の卒論ファイルが完成した。自分が今までパソコンの中でかき上げて来た論文がこうして形になり、提出するために手元を離れるとなると、嬉しくも、寂しくもあるなんとも言えない気持ちになった。
 1月8日の朝に起きて、提出のためそわそわしながら学校へ向かった。先に教務課に卒論を提出し、次に芸術学科共同研究室に提出したのだが、込み上げてくる達成感と共に、手元を離れていくのが、なんだか寂しく感じた。提出後は、先生に提出の報告をすべく先生の研究室を伺い、報告をした。その時に先生から「卒論提出できたようで安心した。お疲れ様」と言葉を頂き、「ああ、本当に卒論を提出したんだ」と思った。

   とはいっても、卒論を提出して終わりではなく、卒論の内容の審査・試験が行われる口頭試問が1月24日に控えているため、それまではゼミ生で自主的に集まり、口頭試問に向けて準備をした。口頭試問では1人10分の時間で自分の卒論について発表をする。そのためきちんと原稿を作り、時間内で自分の卒論について過不足なく全てを言わなければならない。なので、ゼミ生同士お互いの原稿を添削し合い、発表の練習を何度もした。
 そして迎えた口頭試問の日。この日も早く集まり、発表の練習をした。私の発表の順番は10人中8番目だった。自分の番に近づくと、論文の評価を聞くのが楽しみだという気持ちと同時に、心臓がばくばくと音を立てかなり苦しかった。そうしてとうとう自分の発表を迎えた。原稿を読みながら先生からの質問に上手く答えられるか心配で、手が震えていたのを覚えている。
 先生からの初めに言われた評価は、主題はまずまずつかめているということだった。私は「まずまず」という言葉を聞いた瞬間、ああやっぱり結論が甘かったんだな、と悟った。また、論文は体育会系という評価もいただいた。この体育会系というのは、がむしゃらに取り組んだ様子がみられるということだった。他には、18禁乙女ゲームの歴史や18禁乙女ゲームがどのようなものかはきちんとまとまっており、評価できるという言葉もいただいた。これら評価を聞いた時、素直に嬉しく心の中でガッツポーズをしたが、やはり「まずまず」という言葉が頭に残っていた。
 次に先生から「18禁乙女ゲームの表象と性的欲望は繋がらない。18禁乙女ゲームのセックスシーンの類型的なものがどのように繋がっているのか?」という質問を投げかけられたが、私はうまく答えることができなかった。すると先生から「繋がっているわけがない。性的欲望は社会的なもので、個人的に語れるものではない。欲望が類型化されているという状態を良く考えるべきだ」との言葉を頂いた。確かに私は18禁乙女ゲームには「凌辱」、「複数プレイ」、「幼なじみ」といったある種の類型が存在するということを挙げたが、なぜ類型化されているのか、などそれ以上のことは考えなかった。ただ類型がある、ということを言及するだけにとどまっていたのだ。 そしてその18禁乙女ゲームのセックスの類型と、男性向けポルノグラフィに描かれているセックスの類型が同型で、それゆえ女性向けポルノグラフィと男性向けポルノグラフィは同型であり、よって男女の性的欲望をほぼ同型である、といったように、類型=性的欲望だと独りよがりな結論を出してしまったのだ。そう思うと、12月後半に結論を焦って出してしまったのが非常に悔やまれる。また最後に、先生から「ゲーム内の恋愛やセックスと現実のそれは何が違うのか」という質問をもらった。しかし私は質問の意味をよくとらえることができず、一人でパニックになってしまい冷静に答えることが出来なかった。しかし、今考えてみてもこの答えは依然として自分の中ではっきりしていない。簡単に「ファンタジー(物語)である・でないの違い」と言えるのかもしれないが、私はこの卒業論文を執筆してそれだけではないことが漠然とだが分かった。むしろ同じ部分もあるかもしれない、と思うところもある。しかし未だはっきりわからない。

 口頭試問を終えた現在、先生から尋ねられた問いが頭の中をぐるぐるしており、私は依然としてもやもやとした気持ちのままだ。しかし私は就職先が決まっており、あと2ヵ月足らずで社会人になる。そのため残された2ヵ月で、このもやもやした気持ちを自分の卒論と向き合いながら、少しでも解消していきたいと思う。また社会人になったとしても、ただただ忙しさにより時間に流されるのではなく、きちんと卒論で解き明かせなかった18禁乙女ゲームの性的欲望について、本論文で扱った本を読むなどをしてしっかり考えていきたいし、勉強を続けていきたい。これからもこのもやもやとした気持ちを大事にしていきたいと思う。

<*1>性表現を含むため、18歳以上を対象にした女性向け恋愛ゲーム。 <*2>2011年にアロマリエから発売された18禁乙女ゲーム。 <*3>裏名義とは、声優の本名、本名義以外に名乗る時の名前のこと。アダルトゲーム・BLゲームに出演する時使われる場合が多い。