もこ
~第4回発表振り返りレポート~

 私は夏合宿での第3回発表で、「乙女系作品<*1>からみる女性の性的欲望」というテーマで卒論で明らかにしたいと思っていること を発表し、卒論のテーマは「乙女系作品をめぐる女性の性的欲望」、題材は18禁乙女ゲーム<*2>とそれに付随する作品に決まった。 その時に、夏休み中に序論を書き進めることと、第2章の「性的欲望について」を書き進めること、という課題を先生から頂いたに も拘わらず、夏季集中講義の記録班などの活動で忙しいことを言い訳に、あまり進まなかった。今思えば、私は第3回発表でほと んどのゼミ生たちのテーマが決まらなかった中、自分のテーマが決まったこともあり、安心してしまっていたように思う。

 私は9月中にほとんどの記録班の活動を終わらせ、卒論執筆に入った。第2章を書き進めるために、私は性や性的欲望に関する 文献を図書館で探し、読んだ。その時借りた文献は『性への自由/性からの自由 : ポルノグラフィの歴史社会学』(赤川学著、 青弓社、1996年)で、この文献を読んで書かれている内容に影響され、私は乙女系作品を「性的欲望を喚起し興奮せしめる」ポル ノとして見ていると勝手に決めつけてしまった。私はそれから性やポルノグラフィに関する文献をいくつか借りた。『ポルノグラ フィと性差別』(キャサリン・マッキノン, アンドレア・ドウォーキン著 ; 中里見博, 森田成也訳、青木書店、2002年)、『AV 神話 : アダルトビデオをまねてはいけない』(杉田聡著、大月書店、2008年)、『「みだら」の構造』(林秀彦著、草思社、200 0年)、『性欲の文化史』(井上章一編、講談社、2008年)、『ポルノグラフィー : 揺れる視線の政治学』(白藤花夜子編、学陽 書房、1992年)、『セクシュアリティの歴史社会学』(赤川学著、勁草書房、1994年)などである。しかし、これらに目を通して いく中で、私の頭から乙女ゲームや乙女系作品、18禁乙女ゲームなど私の論文の本質であるものたちがすっぽ抜け、完全に脳内が ポルノに占拠されてしまっていた。
 その考えのまま、先生の研究室に卒論の相談に行ったとき、「<もこ>がすきなのは『乙女ゲーム』であって、『ポルノ』として 見ている部分もあるかもしれないが、『乙女ゲーム』として好きなんでしょう。とりあえず落ち着きなさい」という指摘を頂き、 やっと我に返り、私の論文の本質である「乙女ゲーム」を思い出すことができた。私は一つのことを考え出すと、一つの方向に突 っ走ってしまう性質なので、卒論を執筆する上で、常に「落ち着け」という言葉を胸に取り組んでいこうと心に決めた。

 第4回発表では、卒論執筆の経過を発表するのが通例である。私は以下に書いたことを発表した。
 私は前の段落で述べたとおり、「ポルノ」という言葉に囚われてしまったので、先に乙女ゲームの歴史についての章を執筆する ことにした。なぜなら以前のままだと、本の内容に囚われ乙女ゲームを「性」や「ポルノ」という面だけで捉えてしまう危険性が あるからだ。そのため私は乙女ゲームの歴史について書くべく、2012年度長谷川ゼミ生である<ゆーめん>さんの卒論『乙女ゲー ムの経験とは何か―ゲームとプレイヤーのコミュニケーション』の第2章「乙女ゲームの歴史」を参照し、まとめることにした。 また私自身も<ゆーめん>が乙女ゲームの歴史をまとめる際に用いた、女性向けゲーム誌である『B’s-LOG』を第1号から遡り、 直近の号まで閲覧した。一つの雑誌をくまなく見ていくのは想像していたより遥かに非常に骨の折れる作業だった。
 <ゆーめん>の卒論の「乙女ゲームの歴史」を参照し、まとめた後は、国立国会図書館にほぼ毎日通い、私の卒論の本題である 「18禁乙女ゲームについて」の章に取り掛かった。18禁乙女ゲームの歴史について、18禁乙女ゲーム専門誌である『Cool-B Bitter Princess』(宙出版)や女性向けゲーム誌『B’s-LOG』(エンターブレイン)、『Cool-B Sweet Princess』(宙出版)にあたり、 執筆した。18禁乙女ゲームは、2013年8月に18禁乙女ゲームブランドである美蕾から『星の王女』<*3>が発売されたことにより誕生し、 今年で10年目を迎えた。つまり10年分の歴史を追うことになる。私が18禁乙女ゲームの歴史をまとめる上で注目してみていったの が、『B’s-LOG』本誌上で、どのあたりのページに18禁乙女ゲームがどのように書かれているのか、誌面上で行われている「BL&乙 女系売れ筋ソフトランキング」、「移植して欲しいソフト部門TOP10」、「期待するゲーム部門TOP10」といった各種ランキングな どのデータだ。これらを年代ごとにまとめれば、18禁乙女ゲームが当時どのようにユーザーから受け入れられていったのかがきち んと分かる。このように歴史をまとめていくと、「人気のある」「売れた」作品がどのようなものかもわかってきた。「人気のあ る」「売れた」作品として挙げられる作品は割とセックスシーンなど性描写が濃いもが多く、やはり女性は、18禁乙女ゲームをた だ「恋愛の先を楽しむゲーム」として楽しんでいるだけではないことが分かった。
 また、私は第6章で取り扱う予定の「男女の18禁恋愛ゲームのイベントシーンの比較分析」についてどのようにするか、発表した。 なぜ、この比較分析をするのかというと、男女の18禁恋愛ゲームを比較することで、女性の性的欲望が、男性のそれとどのよう に違ってどのような点が同じなのか明らかにし、最終的に女性の性的欲望とは何か知るためだ。

 以上のように私は第4回目の発表をした。発表後に先生からは「性的欲望は<女性の><男性の>といったように分けられる のか?」という指摘をいただいた。確かに私も18禁乙女ゲームの歴史を調べているうちに、男女でわけられるものなのだろうか、 という疑問は湧いていた。それは2006年12月にシュガービーンズから発売された『Under the Moon』<*4>という作品が物語っている。 多くの乙女ゲームの主人公(ヒロイン=プレイヤー)が至って普通の外見で、無個性に描かれることが多い中、その作品の主人公 は童顔で巨乳といった風に個性があるため、主人公主体で描かれていることが多い。その上、18禁男性恋愛ゲームでかなり有名な 女性声優が主人公の声をあてているため、男性のプレイヤーもいると、『Cool-B Bitter Princess』に書いてあったのだ。また先 生からは「卒論を執筆していく過程で、<女性の>性的欲望というフレームが壊れるのが一番良くて面白い、しかしそのような最 初に自分が考えていたことを最後で壊すロジックを卒論でやるのは難しい」というアドバイスもいただいた。私は「男女の18禁恋 愛ゲームのイベントシーンの比較分析」を実践していけば、「<女性の>性的欲望というフレーム」を壊すことができるとまだ明 確な根拠はないが、確信していている。先生は卒論で自分の考えのフレームを自分で壊すことは難しいと言っていたが、私はこの 卒論を書くことで、それを何としてでも成し遂げたい。18禁乙女ゲームをみることで、<女性の>性的欲望を明らかにしたい。こ の発表でその思いは強くなった。最後に先生から卒論のタイトルを頂いた。タイトルは「18禁乙女ゲームにみる女性の性的欲望」 に決定した。

 しかし今回の私の発表は準備が不十分で非常に質の悪いものだった。まずレジュメだ。今回のレジュメは今まで私が執筆してき た卒論をもとに作り、そこに補足説明をしていく形をとった。どうしてこのような形になったのかというと、発表前日まで卒論執 筆をしていて、発表準備に取り掛かったのはすでに発表当日になった0時からだったからだ。つまり卒論執筆ばかりに必死になり、 発表の準備をする時間を作らなかったのだ。また私の発表は、そのレジュメをただ読むだけになってしまっていた。つまり原稿を 作らなかったのだ。私は過去3回の発表では、その場その場で頭の中で話すことをまとめて発表していたので、今回もなんとかなる と思っていた。しかしそれはいつも、きちんと準備をしていたから成せるものだった。今回はきちんとした準備をしていないまま 発表の場を迎えたため、何が言いたいのかよくわからない発表になってしまった。結局私の発表は途中で先生に「君がどれだけ執 筆したのかは分かるが、何を発表したいのかを明確に話してくれ」という言葉とともにストップしてしまった。私自身、今回の発 表で、何を発表するのかよく考えていなかった。ただ、ここまでどのように卒論執筆に取り組み、どこまで卒論を執筆したという ことが発表できればいいと思っていた。その考えが甘かった。発表という場は、先生やゼミ生の皆から意見をもらえる貴重な場で あったにも拘わらず、私はそれを無駄にしてしまった。しかし私は、発表前日まで卒論を執筆していたことを後悔していない。な ぜなら今の私には、一分一秒の時間も惜しいからだ。
 もう卒論のゼミ内提出まで2ヵ月を切っている。本当に時間がない。とにかく卒論を書いて書いて書きまくるのみである。


<*1>乙女ゲーム、シチュエーションCD、ドラマCDなどを含む作品群。
<*2>女性向け恋愛ゲームのうち、主人公(プレイヤー)が女性のゲームで、かつ性描写のあるもの。一般的にPCソフトである場合 が多い。
<*3>2003年8月に美蕾から発売された、史上初の18禁乙女ゲーム。
<*4>2006年12月にシュガービーンズから発売された、パーソナルコンピュータ用18禁女性向け恋愛アドベンチャーゲーム。