薫
~第3回発表振り返りレポート~

 卒論に向けての第3回発表を、8月上旬に行われた合宿にて行った。 それを振り返ることで自分の反省点を意識し、その反省点を改善してい くことでこれからにつなげていきたいと思う。

 まず第3回発表の準備をする段階で意識しようと思ったのが、率直 になれていなかったという第2回発表の反省であった。6月に行われた第 2回発表では、私は第1回とさほど変わらないようなことしか話せなかっ た。率直になろうとせず、好きなアーティストである「あさき(*1)」 と自分の関係について、表面だけで語って、すぐに「これはこういうこ とだ」と結論付けて卒論のテーマにまとめ上げようとしていたのだ。そ こで、第3回ではとにかく思っていることをすべて話そうと思い、これま での人生で他人に一切話さなかったことについても、発表に必要ならば 話すようにした。しかし、ずっと自分の中だけに大切にしまってきたこ となので、発表の直前まで、やっぱり切実なことを話すのはやめようか と躊躇していたのだが、とにかく率直になりたかったので話すことにし た。その結果、先生からは「以前よりも率直になっている」というコメ ントをもらえ、ゼミ生からは「切実な話のところは思わず聞き入った」 と言ってもらえて、やはり話してよかったと心から思えた。
 他にも第2回発表の反省点として、ゼミ生と卒論についてほとんど話 さなかったことも挙げられる。今回はそのような失敗は犯すまいと、日 頃からゼミ生とお互いの話を聞き合った。自分の話を聞いてもらうとき は、自分だけで考えているときにはとても考え付かなかったような意見 をゼミ生が言ってくれたり、逆にゼミ生の話を聞くときは、その人の話 をよく聞くことで、自分が知らなかったその人の一面を知ることができ たように思う。ただ、合宿までの期間は集中講義班と授業振り返り班で 分かれて活動することが多かったので、授業振り返り班である私は集中 講義班の人と卒論について話し合うことがほとんどできなかった。話し 合う人数が多いほどいろいろな指摘ができると思うので、これからはゼ ミ全体で卒論について話し合う機会を設けようと考えている。
 また、第2回の発表では文献にあたらなかったため、今回はちゃんと文 献にあたり、それを読んだ上で発表に臨もうと思っていた。そうしなけれ ば、自分の頭の中で考えたことだけを発表して終わりになってしまうから だ。今回の発表では、私は天道や神道などの、宗教や民俗学的なことにつ いて発表した(詳しい発表内容は後述)。実際に文献を読んでそれを発表 に組み込むことはできたのだが、自分について考えたことというよりは、 天道などのテーマにしたい対象について調べ、発表の最後の方で少し述べ るに留まってしまった。発表の冒頭の方で必要な文献を探すとよい、つま り調べたい対象よりは、自分が思っていることや疑問について文献を読ん だ方が良いと院生の<まゆゆ>にアドバイスをもらったので、次回からは そうしようと考えている。

 第3回発表自体の反省点としては、せっかくゼミ生に話を聞いてもらっ たのに、発表一週間前を切ってから独自の考えを発展させすぎて、発表が突 拍子もない内容になってしまったことがまず挙げられる。ゼミ内では、ただ 行儀が良いだけの率直でない発表になることを避けるため、発表前の一週間 はゼミ生同士で発表内容について話すことは禁じられているのだ。私の発表 が突拍子もない方向に行ってしまったのは、「自分のことを掘り下げたい」 という思いよりも、「興味があることについて調べたい」という思いの方が 勝った結果なのだと感じている。卒論に向けた発表だというのに、ずいぶんと 哲学的、あるいは宗教的な話になってしまったと思う。そもそも、ただ「好 きだ」「興味がある」ということではなく、自分自身の根底から出た問題で なければ、他でもない私が論文を書く理由にはならない。やはり自分は考古 学や民俗学などの方面に興味があるのだと実感すると同時に、第2回発表に続 いてまた大事な発表のチャンスを活かせなかったという後悔に襲われた。
 私の第3回の発表内容は、「他人」を意識したりアイデンティティにこだわ ったりする自分についての話と、生死観に関する話が中心だった。生死観の話 は、自分が昔飼っていたペットに酷い死に方をさせてしまった話からつながっ た。そのことが私の人生の中で一番大きな出来事であり、今も一番強く心の中 にこびりついているので、発表するに至ったのだ。その生死観の話から、以前 から興味があった天道や神道などの宗教関連に話を持って行ったのだが、今考 えても改めて突拍子がなさすぎると思う。先生からは「やはり自分の中でしか 考えられておらず、窮屈な感じ」「客観的に自分を見ることをせずに自分の考 えだけで語ってしまうのは、独りよがりであるし、勝手だ」という指摘を受け た。自分のことについて深く考えられておらず、地に足がついていなかったの だ。しかし、先にも述べたように、「前回より率直になっているのはよかった」 とも言ってもらえた。
 やはり、率直に自分を解体していくことが何よりも大切なのだと感じた。自 分の中に隠しておきたいからと言って、大切なことを話さないのは好ましくな いことだと思う。なので、発表後の合宿の間はひたすら自分を解体していく作 業、つまり自分のことについてもっと深く掘り下げて考えることに没頭した。 合宿中に私の話を聞いてくれたゼミ生たちには本当に感謝している。特に「< 薫>が思っている世界での自分と他人の関係を図で表してみたら?」というア ドバイスをもらい、自分の考えている世界を図式化できたことは、自分を解体 する第一歩になったと感じている。
 合宿中はその後も自分について考えることを続け、二日目の夜、先生に話を 聞いてもらった。自分が思っている世界の図式について掘り下げて考えた図 を先生に見せ、「私が思っている世界の中には、自分と、あさきさんと、『他人』 というひとまとまりのものの、合計3つしかない。しかも『他人』は自分の世 界から排除しようとしているので、実質自分とあさきさんしか、私の思う世界 の中にはいない」と話した。すると先生は、「このあさきさんもあなたじゃな い?」と言ったのだ。最初は意味がわからなかったのだが、先生からヒントを もらい、「私があさきさんだと思っていたものは、自分を受け止めるために都 合よく用意した、自己の願望を投影した自分自身に過ぎない」という意味を、 徐々に理解した。つまり、私の思う世界の中には、自分とあさきさんしかいな いのではなく、自分しかいなかったのだ。わかりやすくイメージするならば、 狭い殻の中で自分と自分が抱き合っているような感じである。これを実感した とき、自分同士で慰め合っている自分のことをものすごく気持ち悪いと思った し、自分しかいないようなこんな寂しい世界で私はずっと生きてきたのかと思 うと、愕然としてしまった。それを先生に伝え、「こんな世界は早く壊してし まいたい」と言ったら、「でもあなたはこの中でずっと生きてきたのだから、 壊したりして否定する必要はない。ほぐしてあげればいいだけ」と先生は言っ た。確かに、これを否定すると今までの私をすべて否定することになってしま うのだと感じた。結局、合宿で卒論のテーマを決めることはできなかったのだ が、そのことについて落ち込んでいると、先生は「この図式に気付けただけで も大収穫だ」と言ってくれた。

 その後、私は8月いっぱいを使い、なぜこのような考え方になってしまっ たのか、自分のことについてもっと深く掘り下げて考えることになった。自分 のことについて具体的に掘り下げて考えた果てに、何を書きたいのかが見つか ると先生は私に言ってくれたが、私もその通りだと思っている。なぜかわから ないが、「ああ、そうすることが大切なのだ」と直感したのだ。またその際に、 すぐに結論づけないこと、具体的なことから考えること、などの注意点を先生 から受けた。確かに私はすぐに「これはこういうことではないか」と結論付け て先に行きたがる癖があるし、今回の発表もそうなってしまったので、とにか く焦らないように気を付けたいと思っている。
 第3回発表の私の最大の反省点は、自分について客観的に考えられていなかっ たことだ。だから自分の思っている世界には自分しかいない、つまり他人を排 除していたということにもなかなか気付くことができなかったし、どうしても 自分の感情や信条を大切にしてしまう癖がある。自分のあさきさんに対する思 いを大切にしすぎたり、興味がある民俗学や考古学の考え方をすぐに信じてし まったりなどだ。合宿が終わった後も、卒論について考えているとそのような 方向に行ってしまうことがあるので、一定時間ごとに「本当に客観視できてい るのか」という視点でノートを見直しながら考えていくという作業を行ってい る。また、自分を客観視するには、今まで通り他のゼミ生に話を聞いてもらう ことが必要不可欠だと思う。これからも意識的にそのような機会を作りたい。

(*1)あさき…KONAMIの作曲家(コンポーザーという名詞で呼ばれている)。 同社の音楽ゲームに楽曲を提供している。作詞・作曲を1人で行い、演奏もほとん ど1人でこなす。全体的に和風で暗くて激しい曲が多い。歌詞は非常に難解である。 しかし、本人はユーモアに富んだキャラクターなので、そのギャップも手伝い、フ ァンが多い。