薫
~第1回、第2回発表振り返りレポート~

 第1・2回発表が行われたが、私はその2回分の発表の機会を充分に活かせなかったと思う。 これまでの2回分の発表を振り返ることで自分のよかったところ、悪かったところを見つめていきたい。

 第1回の発表は、「自分の好きなものは何か、どうしてそれが好きなのか、どのようにおもしろいのか」 というテーマだった。私は、とにかく「好きなものについて語る」ということに嬉しさを隠しきれなかったし、 その程度にしか第1回の発表を捉えていなかった。大々的に自分の好きなものを発表できる機会は生きていく 上でなかなか無いからだ。私は卒論でも書こうと思っている、大好きなあさきさん(*1)について発表しよ うと決めていた。実際に発表では、彼の楽曲や彼自身の特徴をまとめ、さらになぜ自分があさきさんを好きな のかということも含めたレジュメを作成した。また、話の流れを整理するために原稿も作った。さらに、見て いる人がわかりやすいようにパワーポイントも作成し、彼の楽曲を流したりもした。レジュメもパワーポイン トも自分なりにわかりやすく作ったつもりなので、「発表」という形式から考えれば、第1回にしてはそこそ この出来だったのではないかと思う。
 しかし、やはり「好きなものについて語る」ことに気を奪われすぎたのか、卒論に向かってどうしてい くかということが完全に頭から抜けていた。楽曲が一般的なものと違う、その難解さゆえに独自の世界を作り 上げている、などのあさきさんの楽曲の特徴を並べ立て、そこに、すぐ自分の世界に引きこもってしまう自分 自身を関連させ、ただ好きです、と言って終わってしまったのだ。「自分が見ているものがすべてではないの で、他のものと関連付けることが必要だ。そして、たとえば音楽ひとつをとっても、歌詞だけに注目するので はなく(それなら歌詞だけに注目するということの相応の理由が必要)、そのジャンルが生まれた背景などの 流れを見ることが大切だ」と先生に言われた。今まで「自分が見ているもの」しか見ようとしてこなかった私 は、これでは自分の世界は広がらない、と反省した。このときの発表で私がやったことは、ただ対象の魅力を 書き連ねて好きだ、と言って終わるような、個人ブログや個人サイトでやることと大差なかったのだ。また、 私は「~風」「~テイスト」などの言葉を私はよく遣ってしまうのだが、それは普段から細かいことは気にし ない性分なせいと、その言葉の意味をよく考えていないせいなのだと思う。そのように曖昧なものは実体とし て扱ってはいけないとも指摘された。そのような「曖昧なもの」をとらえ直す視点が必要だと言われ、指摘さ れたことすべてが自分の心にピンと刺さり、確かに曖昧なものを曖昧なまま扱っていては碌な論文は書けない、 と納得した。さまざまな問題点が露呈した発表であり、自分が思っていたよりも物事をよく考えられていなか ったのだと自覚した発表だったが、あくまで卒論に向けて考えていく上での、現時点からの出発点としては、 自分自身を見つめ直すきっかけになったので、これでもよかったのかもしれない。

 2回目の発表では、卒論を見据えた発表ということを意識した。個人ブログのようになってしまった 1回目の反省を踏まえて、自分があさきさんとどう付き合ってきたのか、ということに重点を置いた。なる べく曖昧なものは扱わないようにしたのだが、どうしても扱ってしまうところにはこれからの改善点として レジュメに印もつけた。パワーポイントは使わなかったが、1回目同様、原稿も作った。内容としては、自 分とあさきさんを結びつけて考えたことを話し、そのほかにも、同じ「和風の現代作品」としてアニメ『モ ノノ怪』をとりあげた。前回よりもなるべく率直に、自分の昔の話も踏まえて、自分があさきさんの作品と どう付き合ってきたのか、そして今はどうなのか、ということを中心に発表した。
 反省点としては、まず文献を何も読んでいなかったことだ。まだ卒論のテーマが決まっていないとはい え、むしろその段階で、日本の時代背景がわかる歴史の本や、芸術作品が歴史とどう関係してきたかなど、 読むべき本がたくさんあると気付いた。そして先生には「表面にあるものだけを扱っているように見えるの で、質が低い、説得力がない」と指摘され、さらに「その表面の下にあるものに注目すべきなのに、ここか らは入って来ないでください、という風に、とても防衛的に見える」と言われた。これはほとんど意識して いなかったことなので、どういうことなのだろうかと一瞬呆気に取られてしまった。
 しかし、発表後、自分のゼミ活動について反省する際に自分の生き方についてもよく考えたのだが、 そこで初めて、言われた意味がハッキリとわかった。
 私は「自分は自分、人は人」という考え方が昔からとても強く(母曰く、幼稚園に入る前かららしい)、 自分が相手に干渉しない代わりに、相手も自分のテリトリーに入ってきてほしくないという思いがとても強い のだ。何がそんなに怖いのか今でもよくわかっていない。おそらくだが、人に傷つけられるのが怖いのだと思 う。とにかく、私はそうやって自分を守ろうとしてきた。無意識に壁を作ったり、自分の好きなものでバリケ ードを作ったりするのだ。周りに壁を作るということは自分の中で当たり前すぎて、改めて気付くことがなか った。このようなことが、発表にも表れていたのだと思う。

これらの発表で、率直になったつもりでいたが、私はまだまだ率直になれていなかったのだと気付かされ た。今は少しずつでもゼミ生や先生に壁を作らないように努力しているつもりだ。壁を作ってしまう理由など もあまり人に言いたくなかったことであるが、それを言わなければ壁を壊すことにはならないので、今までと 何も変わらないと感じた。いきなり全部をさらけ出さなくても、少しずつ壁を壊すことによって、率直になれ るのではないかと思う。
 また、この振り返り文自体を見て、「これが今の自分なのだ」ということを自覚し、現状を受け止めな ければいけないと感じた。反省点を見つけて、すぐに修正に持っていくのは私の長所でもあり短所でもある。 修正する前に、1回自分の中でよく考えてみることが大切なのだとつくづく思った。
 そして、全体の反省としても挙がったことだが、とにかく卒論や発表についてゼミ生同士で意見を交わ す時間が少なすぎた。ゼミの最終目的は卒論の執筆なのだ。これからはちゃんと自分で自分のテーマと向き合 い、他のゼミ生の話も本当に聴きたいと思っている。それには、やはり「率直」にならないといけないと感じ た。私のこれからの目標は、とにかく「率直」になること、そして「今の自分をよく見ること」である。


(*1)あさき…KONAMIの作曲家(コンポーザーという名詞で呼ばれている)。同社の音楽ゲームに楽曲 を提供している。作詞・作曲を1人で行い、演奏もほとんど1人でこなす。全体的に和風で暗くて激しい曲が 多い。歌詞は非常に難解である。しかし、本人はユーモアに富んだキャラクターなので、そのギャップも手伝 い、ファンが多い。