賭博と反賭博―健康麻雀とはなにか―
<ワコー>



 本論文では、麻雀というゲームを取り巻く賭博性と反賭博性の関係に着目する。麻雀には金銭を賭ける賭博の要素が不可欠となっており、そうした麻雀は現在様々な場面で見られる。それに対し、麻雀から賭博の要素を取り除いた反賭博麻雀は、賭博麻雀とは対極的なものとして存在している。その中で反賭博としての麻雀である健康麻雀(※1)に焦点を当てて実態を検証し、そこから反賭博麻雀の様相について考察してゆく。
 本論文は全6章の構成となっている。序論ではまず、本論文を書こうと思い立った経緯、論文の進めかたを述べる。
 第2章では、中国史の文献や千葉県いすみ市にある麻雀博物館での展示調査をもとに、麻雀誕生までの歴史と海外への進出について述べる。そして麻雀というゲームそのものについての説明ということで、用いられる道具やルールについて説明し、麻雀がどのように生まれ、どのように人々に浸透していったのか、実際どのように打たれるのかということを提示する。
 第3章では、賭博としての麻雀について論じる。まず大本となる賭博がどういったものなのかを、法律と、競馬や宝くじといった公営ギャンブル(※2)を例にとって明らかにしていく。さらに、麻雀荘、賭博麻雀関連の事件、賭博麻雀を扱った小説『麻雀放浪記(※3)』全4部を講読することから、賭博麻雀の様相を探る。
 第4章では、健康麻雀から見る反賭博麻雀について論じる。健康麻雀については、文献、雑誌、新聞の記事の調査と、健康麻雀関連の活動を先導して行っている日本健康麻雀協会(※4)について、設立から現在までどのような取り組みがなされてきたのかを調査し、結果を提示する。また、自身にとっての反賭博麻雀の出発点である家族麻雀にも着目し、自分の家族に対するインタビューから、家族麻雀に対する家族それぞれの意識調査を行う。
 第5章では、第3章、第4章で論じてきたことをうけて、健康麻雀は麻雀の歴史のなかでどのように映るのか、健康麻雀の持つ利点や特徴を洗い出し、その正体について考察する。
 第6章では、調査の中で分かったこと、見えてきた課題点をまとめ、今後の展望について述べる。
 これらから、反賭博麻雀は、賭博麻雀があったからこそ成り立っていたのだということが分かった。健康麻雀において全面的に押し出されている反賭博麻雀の善さというのも、賭博麻雀というものがあるからこそ自分たちは反賭博麻雀の活動を行なっている、という具合に、裏を返せば賭博麻雀が存在しているということを潜在的に理解させるものであった。また、麻雀というものが普及したのも賭博の影響が大きいということも分かった。賭博の手段として扱われるようになってから、麻雀は爆発的に人々に浸透していった。だからこそ健康麻雀の活動も活発に行われるのであり、逆に言えば賭博麻雀がなければ麻雀は人々に広く浸透せず、健康麻雀の活動も勢いの無いものにしかなり得なかったということだ。

※1 健康麻雀とは、「賭けない」「飲まない」「吸わない」というスローガンのもと、麻雀から賭博、飲酒、喫煙の要素を取り除き、純粋に頭脳ゲームとして楽しむことを目的として活動。
※2 公営ギャンブルとは、公の機関がギャンブルとして開催する競技の総称。
※3 『麻雀放浪記』とは、阿佐田哲也原作の小説作品。青春編・風雲編・激闘編・番外編の4部からなる。
※4 日本健康麻雀協会とは、プロ雀士の井出洋介氏が代表を務める、健康麻雀活動を中心になって行なっている団体。1988年設立。