人はボーカロイドになにを求めるのか ――ニコニコ動画のコメント分析から
<島>



 この論文の中では「VOCALOID」「ボーカロイド」と、同じ発音だが意味が異なるため、表記分けをして使用している単語がある。前者の「VOCALOID」とは、YAMAHA社が開発した歌声合成ソフトウェアの名称である。後者の「ボーカロイド」とは、ジャンル名である。VOCALOIDを使用して作成されたオリジナル曲や、パッケージイラストを基にした派生イラスト、さらにオリジナル曲と派生イラストをかけ合わせてミュージック・ビデオを作る。そのような、ひとつの作品から数珠繋ぎに拡がっていく派生作品・派生活動をまとめて「ボーカロイド」というジャンルであると捉えた上で、このボーカロイドがジャンルとして確立するきっかけとなったニコニコ動画(※1)というサイトをベースに、サイトの特徴である動画上に流れるコメントの分析をもって、ボーカロイドに集まる人々というのは一体なにを求めているのかを明かすのが本論文の目的である。
 構成としては全6章から成っている。卒論を書く動機などを書いた序論から始まり、第2章では本論文の軸となるニコニコ動画のコメントによって形成されるコミュニティを見るため、その前史としてインターネットコミュニティの歴史をまとめた。第3章では前章を踏まえてニコニコ動画ができてからの流れを追うとともに、流れの中でユーザーがどのように振る舞っていたのかを押さえた。第4章では、VOCALOIDがニコニコ動画の中でどのように扱われているのか、先に述べた題材であるボーカロイドというジャンルとしてどう成り立っているのかをまとめた。第5章では『恋距離遠愛』(※2)という遠距離恋愛をテーマにして作成されたオリジナル曲の動画、バージョン違いのものも含めて全部で3作を対象に、コメント分析を行った。画面上にユーザーが書き込んだコメントが流れるというのがニコニコ動画の最大の特徴としてあげられるが、本論文では動画に初めてついたコメントから最新のコメントまでを見。細かく調査していくことでボーカロイドというジャンルに集まる人というのはどのように振る舞っているのかを見た。
 その結果、ニコニコ動画のコメントというのは感想やレスポンスを返すにしても、書き込みやすいということがわかった。そして書き込むという行為のハードルの低さから気軽にコメントを書き込むようにはなるが、そのコメント同士で成されていると思われていたコミュニケーションというのは一方的であるということ、またその相手というのは、人ではなく動画そのものであるのだということがわかった。第6章ではとある小さなライヴ会場に行った際に気付いた、アーティストとの距離感とコメントを書き込む動画との距離感について述べ、全体を考察し、この論文の締めとした。

※1 ニコニコ動画…2006年12月12日に設立、サービスの運営が開始された動画共有サイトである。通称「ニコ動」。
※2 『恋距離遠愛』…DECO*27氏によって制作された作品名。
本論文では、
2009年02月12日に初音ミクを使用して投稿された動画。
『[初音ミク]恋距離遠愛[オリジナル曲]』 http://www.nicovideo.jp/watch/sm6121029
2009年02月16日に巡音ルカを使用して投稿された動画。
『[巡音ルカ]恋距離遠愛[セルフカバー曲]』http://www.nicovideo.jp/watch/sm6167085
2011年11月11日にとぴをメインボーカルとして迎え投稿された動画。
『【DECO*27】恋距離遠愛【Music Video】』http://www.nicovideo.jp/watch/so16134623
以上3作を対象としている。(要ログイン)