クラブカルチャーとはなにか―音楽・ダンス・テクノロジー
<きーにゃん>



 本論文は、クラブカルチャーがどのようなものなのかを全6章に渡って扱い、考察したものである。
 クラブカルチャーとは、テクノロジーと不可分なクラブミュージック(※1)という音楽とその音楽が展開されるパーティー(※2)やダンスフロアという場所を軸に成立している大衆音楽文化のひとつである。これは、一般にはクラブミュージックに合わせて人々が踊るものであると形容されるが、実際にはどのようなものなのかが茫漠としている。そこで、本論文をクラブカルチャーとはなにか考えていくための導入として位置づけ、基礎的な作業を中心に取り組んだ。
 まず、第2章にて大衆音楽とテクノロジー、社会の経緯や歴史を辿り、クラブカルチャーを大衆音楽文化の系譜において見つめ直した。次に、第3章にてクラブカルチャーを構成する基本的な要素であるダンスフロアやテクノロジーについてまとめ、第4章ではクラブミュージックについての整理を行なった。その上でパーティーに着目し、第5章で池間了至の小説『アディクトの優劣感』(文芸社,2005)を取り上げてその諸相に迫った。第6章では以上の取り組みを通して全体の考察を行なった。
 考察の結果、以下のことが分かった。パーティーでパーティーピープル(※3)はテクノロジーで実現されるクラブミュージックや演出を身体で感じ、踊る経験を快楽や神聖性に結びつけているが、ここで得る快楽はDJ(※4)が機材を操作することによる場の管理や、規則的なリズムなどのシステムと不可分なものであり、リズムや音量は身体の動作を規定している。テクノロジーやシステムに管理された人間の生き方は歴史の中で異議を唱えられてきた経緯があるがクラブカルチャーにおいてはその関係が要請され、テクノロジーの追求によって実現される領域が重要であるためにパーティーでの経験が重視されていると考えられる。
 今後の課題として、実際にパーティーやパーティーピープルを見ていくことでクラブカルチャーについて考えていく必要がある。

※1 クラブ(DJが流す音楽にあわせて踊り、酒が飲める店舗)での受容を中心に展開される音楽のこと。ハウスをはじめとする4つ打ちのダンスミュージックだけでなくチルアウトのための音楽まで多岐にわたるが、エレクトロニック・ミュージックが中心である。
※2 クラブミュージックを扱うイベントのこと。
※3 パーティーに参加する愛好者のこと。他に、パーティーフリークやパーティーアニマル、パーティーキッズなどいくつかの呼称がある。
※4 Disc Jockeyの略。主に、2台のターンテーブルを用い、楽曲を選曲して継ぎ目無くつなぐというスタイルで音楽を担当する。ラジオのDJとは別。