クラブカルチャーとダンスミュージックについての発表を終えて
<きーにゃん>



◆発表の概要
 私は第一回テーマ発表の後半戦である5月25日に発表を行った。今年度で長谷川ゼミでの活動が二年目となる私にとっては昨年度に続き二回目の第一回テーマ発表である。きっと他のゼミ生はゼミに入って初めての発表ということで緊張の面持ちで取り組んだことと思うが、私もついに卒論への一歩を踏み出す発表ということで、今までにない緊張感を持って挑んだ発表であった。

 まず、クラブカルチャーとダンスミュージックに出会った経緯と出会ってからどのように理解しようとしてきたのか、というゼミに入る以前までのことを話した。次に、昨年度のゼミで対象に対してどのような取り組みを行ってきたのかということについて、2010年度ゼミホームページにてクラブカルチャーとダンスミュージックについての連載*1 を行っていたことと、自分とクラブカルチャーについての関係を掘り下げデジタルストーリーテリング*2 という映像作品を制作したことを話した。そして、春休みの間どのような取り組みを行っていたのか、ということについて話した。私は昨年度の取り組みで自分の知識や理解が乏しいところをカバーするためにそれに適した五冊以上の本を読むという目標をたて、春休みを過ごした。

 最後に本題である今最も気になっていることについて、ダンスミュージックの無限ループ性と大量配信について発表した。ダンスミュージックはレコードという記録媒体を前提として成立し、デジタルへ移行した現在も同様にその音楽性は記録媒体を前提としている。DJ *3パーティー*4 でのプレイ*5 において、記録された音楽にミキサーやエフェクター*6 を用い効果を加え、ソフトウェアや機材を用い楽曲をパーツ化して別の楽曲へ融合させたり、各要素を組み合わせ再構築するという作業を行う。ダンスミュージックはこのような作業が行われることを前提として制作されている。また、楽曲はもとの楽曲の一部や雰囲気を残し、なんらかの原型を想起させる特徴を含みながらも、全く別の可能性を持つ楽曲として作り替えられ、リミックスされる。アーティスト本人による再リミックスやリミックスのリミックスなども日々行われダンスミュージックの楽曲は無限に参照、引用、再構築される。そして、楽曲は解体、パーツ化されリミックスではない新たな楽曲の一部として使用される。中でもリミックスの現状を分かりやすく説明するために、celldweller *7 というアーティストの『switchback』という楽曲の原曲と多くのリミックス作品を資料としてあげ、実際に聴いてもらった。このように、完成や終わりのないダンスミュージックは無限ループ的であり、その性質ゆえに日々大量に新作が発表されている。ダンスミュージック専門音楽配信サイトのBeatPort *8 にて5/24/11付けで配信されている楽曲総数を調べると全1,524曲であり、毎日このように大量配信がなされている。私は春休みの取り組みや日々ダンスミュージックに触れる中でこれらの何かがひっかかっており、以上を今回の発表の本題として発表した。



◆発表を終えて
 発表後に問題としてあがった点としてまず、私の中でダンスミュージックへの見解が甘いことがあげられる。音楽は古くからダンスと結びついており、現在一見ダンスと結びついていないように思える音楽も元々はダンスミュージックとしての性質を含んでいた経緯があるということである。大衆文化の一貫としてのダンスと音楽の関係をすっかり忘れており、私は無意識にダンスミュージックをクラブ特有の音楽のものであるとしていた。そこで、クラブにおけるダンスミュージックと広義のダンスミュージックについての理解の整理をし直す必要がある。次に、リミックスや無限ループ性を例に作者性的な点に論点をしぼっていたが、その性質はネット社会での問題と類似しており、そもそもネット社会とは誰が作ったのかという定義がよく分からないというのが普通になっているということである。最後に、思い入れの強い対象であるがゆえに私の視野が狭くなっているということである。これは、発表の最後に本題以外で気になっている点として、ダンスミュージックに気になっている点が偏っているが、パーティーなどクラブ やレイブ のことについてが自分の中で抜けてしまっている気がする…と心境を語っていたことから自分でも気にかけていた点のひとつである。もっと詳しく調べていこうとしているうちに視野が狭くなりピンポイントな範囲に興味の矛先が収束してしまっているという状態である。しかし、そもそも私の切実な対象はダンスミュージックだけでなくクラブ*9レイヴ*10 でのパーティーの体験も含めクラブカルチャー全体であるのが重視すべきポイントである。

 そこで、包括的に考えていく視野を忘れないように、違和感を抱いている点を見落とさないようにし、今考えていることに対し一歩引いて考える視点を常に持つように心がけ、情熱を大切に、対象への考察を深めていくのが今後の課題としてあげられる。

 私は、昨年度から卒論で扱う対象がクラブカルチャーとダンスミュージックに決まっていた。この対象への思いがゼミに入り、大学で本気で学ぶ姿勢へと私を変化させたきっかけとなっており、私にとって切っても切り離せない切実なものだからだ。ゼミに入るまでに対象を理解するために行っていた、クラブやレイヴなどのパーティー通いやひたすらに音源を聴くことで、多くの理解へつながった点もあるが、卒論として取り組むとなれば対象を俯瞰する視点、すなわち距離が必要である。そこで私は対象をより考えていくために、自分の理解と向き合いそれまでの密接な関わりから遠ざかるようになった。もうずいぶんパーティーでひとりのクラバーとして遊ぶ日々からは遠ざかっており、以前と比べると距離もできたはずである。しかし、これまで密接に関わっていたため、逆に距離ができると距離をとりすぎてよく分からないといった問題に現在直面している。このことが、クラブやレイヴでのパーティーといった私にとって欠かせないはずの要素をすっかり抜かしていた今回の発表にあらわれている。切実な対象をテーマとして向き合うことの難しさをまた一段と感じている。正直焦る気持ちもあるが、落ち着いて考えていくしかない。

 卒論への一歩を踏み出す前期中間発表を終え、夏合宿までの残り二ヶ月となった。詳細を調べるべき点と、自分にとって重要なポイントをしっかり区別し、テーマ決定に向けて準備を進めていきたい。




◆注釈
*1 2010年度長谷川ゼミホームページのコンテンツWorks内にて隔週更新で『クラブカルチャーとダンスミュージック』という連載を行った。詳細は以下のURLを参照。
http://www1.meijigakuin.ac.jp/~hhsemi10/

*2 デジタルストーリーテリングとは、自分にとって切実なものをテーマに制作する映像作品のこと。私の作品についての詳細は以下のURLを参照。
http://www.youtube.com/user/hajime2010semi

*3 ディスクジョッキーの略。主にクラブやディスコ、野外イベントなどで、ターンテーブルやCDJ(DJに必要なレコードやCDで音楽をかける機材)、また音楽編集ソフトウェアなどを使用し、曲を切れ目なくつなぐ選曲者である。四つ打ちのダンスミュージック(ハウスやテクノやトランスなどの四拍子のダンスミュージックのこと。)以外でもレゲエ、ヒップホップ、R&B、J-POPなどさまざまなジャンルで存在する。(ラジオ番組のDJについては、司会者としての意味なので省略。)

*4 クラブや野外でのダンスミュージックのイベントのことをパーティーという。クラブ好きのことをパーティーピープル(Party People)と称すこともある。

*5 DJが行なっている曲をつなぐなどの一連の動作や、アーティストのライブ(ダンスミュージックのアーティストもソフトウェアや機材を使いライブを行なう)のこと。

*6 機材のこと。周波数やテンポ、音量の細かい調節をしたり、音色や曲に効果を与えたりする。

*7 アメリカのミシガン州デトロイト出身のマルチ・インストゥルメンタリストのKlaytonによるエレクトロニック・ロックのプロジェクト。ロックをベースとし、エレクトロニック・ミュージックとの融合が特徴的である。全て一人で制作しており、映画やゲームなどに多く楽曲が使用されている。詳細は以下のオフィシャルホームページURLを参照。
http://www.celldweller.com/2011/

*8 クラブミュージックを専門にさまざまなエレクトロニック・ミュージックを配信するイギリスのWebサイト。クラブミュージックの専門としては世界最大規模である。詳細は以下のURLを参照。
https://www.beatport.com/ja-JP/html/content/home/detail/1/beatport

*9 アーティスト(主にDJ)の流す音楽に合わせて身体を揺らしたり、踊ったりすることのできる飲食店。通常23時から5時までを夜間営業とする。(営業時間など風営法に違反する点があるため、たまに警察がやってきて音が止まってしまうこともある。)酒類・タバコを販売しているため、入り口では写真付き身分証明書によるIDチェックが行われ、日本では20歳以上が入ることができる。(例外もあり、その場合18歳〜となっている。)

*10 ダンスミュージックの野外イベントのこと。1泊〜1週間まで期間は様々(もっと期間の長いものもある)。1980年代後半英国で、アシッドハウスやテクノという当時最先端のダンスミュージックがアメリカから輸入され、MDMAなどのドラッグの普及の影響もあり、発展した。クラブやディスコにはないものを求め、倉庫や農場などを使用し、無料で若者が開き始めたのが始まり。日本では野外イベントのことだけでなく、屋内での大型のイベント(アリーナなどの施設を使用)のことを、屋内レイヴと称すことなどから、大規模なパーティーを指す言葉としても使用される。