MOTHER presents UNIVERSAL SOUNDS OF ORCHESTRA
2010.5.1 SATURDAY @ageHa
ライター:<きーにゃん>


 私は、クラブ・ダンスミュージックカルチャーについて研究したいと思い、勉強している。フィールドワークの一環として、足を運んだイベントについてレポートしたいと思う。
 ageHaは日本最大のクラブであり、東京の新木場にある。今回ageHaでのイベントをオーガナイズしたMOTHERは特に野外イベントに力を入れるプロモーターとして毎年ゴールデンウィーク・8月に大型の野外イベントと年数回のクラブイベントを開催していた。しかし、集客数の減少や方向性の転換などの理由で昨年から夏の野外イベントを休止し、今年はゴールデンウィークも休止であった。今回はクラブイベントでの開催であり、野外でMOTHERのラインナップを見られないのは残念であるが、私は毎年MOTHERの野外イベント・クラブイベント共に足を運んでいた観客の一人として、このイベントをとても心待ちにしていた。
 ageHaは広いため、人気のないイベントは集客数ですぐに分かる。会場は満員で、このイベントの注目度が反映されていた。テントエリアのBOXはオーガナイザーが別なので普段MOTHERのイベントでは耳にしないようなハードなダークサイケデリックトランスが流れていて新鮮だった。ラウンジのISLANDとメインのARENA、外のWATERのエリアがMOTHERだ。6月に3rdAlbumを発売するサウスアフリカのアーティストPROTOCULTUREのスペシャルライブセットと、彼のDJセットの別名義でのプレイは特に注目されていた。新しい曲が多く会場の雰囲気も違うのでいつものPROTOCULTUREではなく、かっこいいけど物足りなさが残ると感じたプレイだった。やはり野外と箱(クラブ)の選曲の違いによってアーティストでもだいぶ内容が変わる。
 プログレッシヴロックバンドのGONG時代から数えるとキャリアが30年以上にもなり、ジャンルをこえて活躍するSYSTEM 7は相変わらずライブの観客との一体感がすごい。絶妙なタイミングで響くギターサウンドと、BPMは早いのにしつこくないリズム、スペーシーな音色が散りばめられた、テクノでもありトランスでもありハウスでもありプログレッシヴロックでもある音楽性とセット構成の緻密さに踊らずにはいられなかった。クラウドが踊ってナンボのダンスミュージック。野外と箱、世代とシーンの流行などによりダンスミュージックカルチャーにも波があるが、自分の三倍もの年齢のアーティストに圧倒された夜だった。

注:
ageHa……
2002年の年末にベイサイドエリア新木場にオープンした多目的エンターテインメントスペース「ageHa@studio coast」。そのなかで毎週金、土、祝前日の23時から行われている日本最大規模のクラブイベント「ageHa」では世界でも類をみない音響設備(オクタゴン)を搭載し、最高の音を体感できる。主に金曜日はヒップホップ・レゲエのイベント、土曜日はハウス・テクノ・トランスなど四つ打ちのダンスミュージックのイベントが行われている。なお、夕方・昼間などはライブホール「STUDIO COAST」としてクラブミュージックとは別ジャンルでも機能している。

MOTHER……
2002年12月から屋内イベントを、2003年8月から野外イベントを開催するイベントプロモーター。
野外イベントは毎年5月のGROUND BEAT(1泊2日〜2泊3日)と、8月のS.O.S FESTIVAL(2泊3日〜3泊4日)を中心に、2004年、2006年、2007年は秋(主に10月)にも開催していたが、2010年は開催予定なし。
2010年は屋内イベントに力を入れており、既に3回開催されている。
ジャンルは、サイケデリックトランス、プログレッシヴハウス、テクノ中心。

サイケデリックトランス……
ゴアトランスから派生した四つ打ちの140〜145BPM前後のダンスミュージック。ゴアトランスは1990年代初頭にインドのゴアで確立された。(ジャンルの確立者の一員であるイギリスのアーティストJuno Reactorはゴアに行ったことなかったと言い、例外もある。)テクノから1980年代後半に派生したトランスが、ゴアで発展したもの。1990年代終盤〜2000年にそれまでのゴアトランスのスタイルをベースにサイケデリックトランスへと発展、移行していった。現在ではゴアトランスの発展系をサイケデリックトランスと主にカテゴライズする。
サイケデリックトランスには、「ダーク」、「フルオン」、「モーニング」などの細かい分類がある。
「ダーク」は音がダークなのではなく、他のサイケデリックトランスに比べて高速のビートと過剰なサウンドエフェクトが特徴である。
「フルオン」は最高に盛り上がった状態の曲展開が特徴であり、イスラエルサイケに多い。
「モーニング」は朝方に合うさわやかなサウンドと、美しいメロディーが特徴である。野外イベント(レイヴ)ではこの系統のアーティストは朝方に登場することが多いが、クラブイベントでも重宝される。比較的サイケデリックトランスに抵抗がある人でも聴きやすい、サイケデリック特有の「クセ」や「アク」の強さが低いサウンドである。

PROTCULTURE……
南アフリカを代表するNANO RECORDSの中心的アーティストであるPROTOCULTURは幼い頃からジャズやクラシックピアノを習い、恵まれた音楽環境の整った中で育ち、映画のサウンドトラック制作をはじめサウンドエンジニアとしても活動している。30年以上の歴史を持ち、毎年数十万人のパーティピープルで賑わう世界最大の野外フェスティバルGlastonbuury Festival(英)にKOXBOX、HULCINOGEN(両者ともゴアトランス黄金期からの巨匠。)らと03年、04年と連続出演を果たし、国内外のプレスからフェスティバルを最も盛り上げたアーティストとして喝采を浴びた。また04年から自身の別プロジェクトSILVERSURFERS(プログレッシブハウスのジャンルをプレイする上での別名儀)として活動を開始。2003年10月に1st Album「Refractions」でデビュー。2006年に発売された2nd Album「Circadians」は最高傑作ともいわれ高い評価を得る。2010年6月2日に3rd Album「LOVE TECHNOLOGY」を発売予定。
日本では「モーニングサイケの貴公子」とも称され、実力・人気共にトップクラスのアーティストである。

プログレッシヴロック……
1960年代後半のイギリスに現れたロックのジャンルのひとつ。
ロックの表現方法が多様するなかで、クラシックやジャズ、他ジャンルの演奏方法、スタイルにアプローチした、それまでのロックから大幅に踏み出した制作姿勢をもつバンドを総称した呼び方である。

GONG……
1967年にオーストラリア生まれのデヴィット・アレンを中心にフランスで結成されたプログレッシヴ・サイケデリックバンド。
1969年にフランスBYGレーベルから、1st Album 「Magick Brother」でデビュー。
メンバーの出入りが激しく、脱退したメンバーがGONG名を冠するバンドをつくり、いくつも存在するため、GONG GLOBAL FAMILYと呼ばれる。
1974年の「YOU」によってひとつの到達点に達し、ここで後にSystem7となるスティーヴ・ヒレッジとその他2名が脱退する。

SYSTEM 7……
SYSTEM 7はイギリスのスティーヴ・ヒレッジとミケット・ジローディ夫妻の2人組ユニットで、前身 であるプログレバンドGONG時代から数えると、二人のキャリアは30年にもおよぶ。トランス、テクノ、アンビエントなど様々な要素を内包するユニットである。SYSTEM7としては過去に7枚のアルバムをリリースし、 2000年には自身のレーベル"A-WAVE"を立ち上げる。そのエレクトリックギターをフィーチャーしたサイケデリックなテクノサウンドでオリジナルなハーモニーを奏で続けている孤高の存在。日本でのライヴパフォーマンスとしては、広島・厳島神社で行われた世界聖なる音楽祭、TOKIO DROME、渚音楽祭、朝霧ジャム、BLISSDOM、MOTHER、奄美皆既日食音楽祭などで1999年から毎年コンスタントに来日を果たしており、その時空を超えたパフォーマンスで若い世代からの支持も確実に増やし続けている。そして2005年には新アンビエント・ユニット『MIRROR SYSTEM』のアルバムを発表するなど、その活動は絶え間なく続いている。 2007年秋には手塚治虫氏の代表作である『火の鳥』をトリビュートしたアルバムをリリースした。
アメリカではMacOSと名前が被るため使用できず、「777」と名乗っている。

BPM……
Beats Per Minute。音楽において演奏のテンポを示す単位。一分間における拍の数を表す。一分間に60拍なら60BPMまたはBPM60。

http://www.ageha.com/
http://www.mother.bz/
http://www.myspace.com/protocultureonline
http://www.a-wave.com/system7/