第四回 「パーティー・イベントについて」(2)


3.レイヴの詳細について(日本国内)
 レイヴはお台場や都市近郊などで行われるものもある。都市部で開催されるものは朝から夜までの時間帯などが多く、騒音などの問題で夜間の開催は避ける傾向にある。しかし、1泊以上の期間になると都市から離れた、車や電車で行かなければならない山や海などで行われることが多い。山の場合は、開催地がキャンプ場であったり、夏のスキー場のゲレンデを借りていたりする。海の場合はビーチが多い。一般的な1泊以上のレイヴは暗くなってから音が出はじめ、夜を通して昼頃まで行われる。開催期間が1泊の場合は宿泊の用意をせずに参加するものが多い。夜間営業のパーティーとアフターアワーズのパーティーに通しで参加するような時間感覚だからだ。夜通し踊っていたら、もしテントを張っていてもほとんど利用せずにたたむことになる。一方、開催期間が2泊以上のレイヴは宿泊を要するため、ほとんどが山で開催されている。開催地がキャンプ場などの場合、ほとんどの人が用意されたキャンプスペースにテントを張って過ごす。数に限りがあり、割高になるが、コテージを予約するという選択もある。また、近くに温泉がある開催地が多いため、車で入浴しに行くこともできる。2泊以上のレイヴでは、昼過ぎから夜までは、休憩のためにプレイが一旦終了してフロアの音が止まったり、チルアウト(※17)の音楽に変わったりする。そのような休息の時間に入浴や睡眠をとることができる。
 開催場所や期間により持って行くものは変わるが、レイヴには多くの荷物が必要である。宿泊を要するレイヴであれば、テントや折りたたみの椅子やライト、寝袋などのキャンプ用品はもちろん、山で行われる場合は気温の高低差があるため、夏でも厚手の上着が必須である。また、クーラーボックスに食材をつめて持ち込み、バーベキューをする者もよく見かける。山のレイヴでは雨が一度も降らないレイヴのほうが少ないので、雨をしのぐカッパやレインブーツを持ってくる人も多い。ソフトドリンクや酒類、食事や民族衣装、レイヴァーファッションを売る露店などが出店しているため、食べ物や飲み物を何も持ってこなくても問題なく過ごせる。パーティーによってはシャトルバスの運行が行われているものもあるが、多くの人が車で訪れている。
 イギリスでレイヴが始まった当初は、DIY(※18)の精神に基づき、自分たちで自分たちのためのパーティーを始めるというものであった。そのため、入場料は無料かそれにほぼ等しい程度の低額のものであったが、セカンド・サマー・オブ・ラブ以降からレイヴ全体の入場料の価格が高騰してきた。日本でもレイヴの開催が多様化するにつれて、価格が高騰した。国内にも多くフリーのパーティーは存在するが、有料のものはアーティストのラインナップが豪華になればなるほど値段も上がる。現在の相場としては、8000円~18000円程度が豪華なラインナップの商業レイヴの入場料であると言える。国内DJが海外からのゲストDJを1~2名たてて行うような小規模なレイヴである場合、相場は下がり、無料~5000円程度の入場料となる。クラブでのパーティーと同じように、レイヴの関係者に知り合いがいれば、ディスカウントやフリーで入ることができる。
 ステージはメインステージ1つだけのレイヴから、3ステージほどあるレイヴが国内では多い。2ステージ以上あるレイヴは比較的規模が大きく、メインとは別にチルアウトのための音楽のステージを設置しているレイヴもある。

※17 チルアウト
1990年代前中期にできた電子音楽の一種。くつろぐことを目的にした、スローテンポなさまざまな曲調の電子音楽の総括。1980年代後半からのレイヴブームなどで、激しい音楽で踊る文化が定着したことにより、このような落ち着いた音楽が生まれるに至ったという説がある。

※18 DIY
Do It Yourselfの略語。専門業者にまかせず、自身で作ろうという意味。日曜大工から自作パソコンまで広く用いられる言葉。

レイヴ情報についてのWebサイト
海外のレイヴ情報http://party.marimoff.com/party_world/
国内のレイヴ情報http://fes-camp.sakura.ne.jp/event.html
http://ameblo.jp/rave-navi/


2008年10月 お台場 渚音楽祭 背後はフジテレビのビル。現在もお台場での開催だが、フジテレビの前とは別の場所になっている。


2008年8月 千葉県館山でのビーチレイヴ


2008年8月 長野県白馬 Mother主催の S.O.S Festival


2009年5月 富士山の麓 Mother主催 Ground Beat テントサイトの様子


2008年8月 長野県白馬 Mother主催の S.O.S Festival メインステージ GMSのプレイ

4.レイヴの問題について
●イギリスで定着したレイヴのドラッギーなイメージ
 レイヴでまずあげられる問題は、第二回にてクラブの問題点でも取り上げたものと同様、薬物の問題だろう。イギリスでのセカンド・サマー・オブ・ラブの頃の熱狂ぶりの原因のひとつに、同時期にアメリカから輸入されたMDMAというドラッグが急激に広まっていた点があげられる 。MDMAは合成麻薬の一種であり、錠剤型麻薬の代表格として現在も世界中に存在している。海外では「E」や「エクスタシー」という通称で呼ばれ、日本では「バツ」や「タマ」などの通称で呼ばれている。セカンド・サマー・オブ・ラブの際、集まって踊り狂う人達だけでなく、こうしたドラッグの取り締まりのためにも、イギリスの警察はレイヴやパーティーを取り締まろうとした。この頃にイギリスで爆発的な成長をとげたレイヴカルチャーであったが、一般に知られるようになったきっかけとして、さまざまなマス・メディアに「危険なドラッグパーティーである」という一面ばかりが報道されたところにもある。そして警察とマス・メディアの影響によって、レイヴカルチャーはアンダーグラウンドではいられなくなった。結果、商業化せずに無許可で違法に開催する当時の在り方から、現在のように、許可をとり大型に商業化し大衆化したレイヴやパーティーの増化へと変化していったとみられる。
 このセカンド・サマー・オブ・ラブ以降、イギリスだけでなく、その後世界的に定着した「危険なドラッグパーティー」というイメージは、現在の日本でも同様に見られる。そして世界的に、こういったドラッギーなイメージがレイヴの開催状況へ影響を与えている。日本国内での対策としては、そういったイメージを打破するために、デポジットの導入や食器持ち込みによる割引などのエコ活動に積極的なレイヴが多い。また、地域の和太鼓チームが壇上にあがり、パフォーマンスを披露する様子を見たこともある。開催を続けるために、エコ活動や地域との密接な交流などが必須となっている。

●現在のイギリスで蔓延する合法ドラッグ問題の影響
 イギリスでは現在、パーティーピープル(パーティー愛好者)の間だけでなく、広く合法ドラッグが蔓延していることが非常に問題視されている。合法ドラッグとは、現在の法律によって違法と指定されていない、さまざまな法律の網の目をくぐり抜けたドラッグのことである。法律で違法とされていないため、現在は合法ドラッグの配達業なども行われているほどである。LSDやMDMAなど、元々医療や科学の現場で発見されたドラッグについては、副作用や効能、後に人体に及ぼす影響などが研究、把握されている。これに対して合法ドラッグは非常に多様化し、多くの種類が製造されている。医療や科学の現場で作り出されたものではないため、研究が及ばず、人体にどのような影響があるのか不明である。医師がテレビ番組で「合法ドラッグを使用するぐらいなら、違法に指定されているドラッグを使用したほうがましである」と、イギリスで蔓延する合法ドラッグの危険性について訴えたほどである。こうした合法ドラッグを、イギリス国内のレイヴやパーティーに持ち込む者も増えている。また、輸出可能なものについては海外に輸出され、日本で出回っているものもある。イギリス国内の若者とドラッグをめぐる問題はいまだ混沌としており、レイヴやパーティーでのドラッグの現状に大きく影響しているといえるだろう。

●クラブ・レイヴカルチャーをめぐる作品紹介
 MDMAを取り扱うイギリスのクラブやレイヴカルチャーが反映された作品に「Human Traffic」という映画がある。作中でMDMAは「E」として扱われている。誰にでも手に入れられるほど普及してしまった「E」が、「E」世代の若者にどう影響したのかを考えることができる。パーティーと、「E」をめぐるパーティーピープルの状況がよくあらわれているため、興味がある人はこの映画を見ることをおすすめする。
「Human Traffic」1999年制作 イギリス/アイルランド
脚本・監督 ジャスティン・ケリガン
http://www.imdb.com/title/tt0188674/
http://movie-fan.jp/1999/00016455.html

●レイヴの規制ーイギリスー
 レイヴを開催すると大量の人が集まり、大音量の音楽が流れる。騒音や地域の治安の問題などで、レイヴに対する取り締まり規約も存在している。ここでは、その中からまずイギリスのものをとりあげる。
 セカンド・サマー・オブ・ラブ後もレイヴカルチャーは多様化し、商業化し、イギリスのみならず世界的に拡大を続けた。しかし、ドラッグ問題や社会の不安定化の観点などを示唆した警察からたびたび圧力をうけ、ついにレイヴを取り締まるための法案ができた。1994年に法案化されたのが「Criminal Justice and Public Order Act 1994」である。その中の第5部において「反復するビート(repetitive beats)」に対する規制を定めている。これは、レイヴカルチャーがまだまだ拡大していたイギリスにおいての、事実上のレイヴ禁止法ともとれる。なぜなら、レイヴで流れる四つ打ちのダンスミュージックはビートの反復で構成されているため、反復するビートなしではレイヴはありえなかったからである。そのような法律に対抗するため、ビートだけでなく音楽が一切含まれない音源を発売したり、デモや抗議も行われたりした。やがてこうした努力が実り、開催をめぐる状況は改善された。セカンド・サマー・オブ・ラブから20年余り経った現在、イギリスでのレイヴはロック・コンサートさながらの規模を誇るものも多く、今もさまざまな問題を抱えながらも開催に至っている。

「Criminal Justice and Public Order Act 1994」に対するデモ抗議の様子

●レイヴの規制ーゴアー
 サイケデリックトランス、ゴアトランスのメッカとして、地名がそのままジャンル名にまでなったインドのゴアにおいてのレイヴも例外ではない。1990年代中後期にレイヴの名所として、インドのゴアやタイなどのレイヴを開催するアジア諸国へ、ヨーロッパをはじめとする世界中のレイヴァーがパーティー目的に多く訪れるようになった。そのようなアジアへのバックパックの旅やレイヴの旅は、2000年公開の映画「The Beach」によって世界的に認知されることとなり、来客数にさらに拍車がかかった。
 しかし、2005年にインドのAnjuna-Arporaビーチ一帯におけるレイヴが全面禁止となった。レイヴ目的の旅行者が多く訪れ、長期滞在をする者も多かったので、地域経済に好影響をもたらしていたが、それ以上に地域が抱える問題が肥大化したのだ。毎年ドラッグによるものだと推測される不審な死に方をした旅行者(半数がイギリスからの旅行者)が後を経たなかった。また、騒音で眠れない日々が続いたり、旅行者を対象にしたドラッグの密売人が増化したりするなど、そこに住む人々や学校などに多大な悪影響を及ぼした。一時はゴアだけではなくタイのレイヴの名所などにも多くのパーティー旅行者が訪れていたが、現在は警察の監視下でパーティーが行われている。規模も数も縮小され、アジア2大レイヴ名所は終息しつつあるのが現状である。
「The Beach」 2000年公開 アメリカ
監督ダニー・ボイル 主演レオナルド・ディカプリオ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%81
http://www.imdb.com/title/tt0163978/

●レイヴの規制ー日本ー
 日本ではレイヴそのものを取り締まる法律はない。しかし、レイヴ会場によっては会場手前で警察の検問を受けるものもあり、レイヴ参加者を対象にした取り締まりが強化されているのは事実である。
1990年代後半には、多くのフリーパーティーが東京の中心にある代々木公園にて開催されていたと書いた。毎週いろいろなパーティーが行われ、中には有名海外DJがプレイしたものもあった。当時の最大規模のものとしては、1998年から2002年まで、毎年春に行われていた「春風」というパーティーがあげられる。環境問題についてもとりあげた平和的なパーティーであったが、代々木公園でのパーティーのあまりの乱立ぶりに、ここでのフリーパーティーは終息をむかえ、2002年ごろから落ち着きを見せていた。しかし、違法にパーティーを行う者も多少なりとも存在していた。「春風」は2009年に、主体となる音楽性をダンスミュージックからジャム、セッション系のジャンルへと変化させ、イベント自体は復活した。現在、代々木公園で行われている大規模なダンスミュージックのフリーパーティーは、「TDF」(Tokyo dance music festival)が代表的だ。国内有名DJが参加し、毎年秋に行われているイベントである。今年の開催予定はまだ提示されていない。
「春風」Webサイトhttp://www.balance-web.com/harukaze/
「TDF」Webサイトhttp://www.tokyodancemusicfestival.jp/
 しかし、個人的にゲリラで行われていたパーティーの度重なる騒音問題などの影響で、2009年6月1日から、代々木公園での野外ダンスステージライブの規制取り締まりがより厳しくなった。重低音の響く音楽ジャンルのイベント開催に対しては、使用申請を受け付けないと公園管理側が提示した。他ジャンルも含め、ダンスミュージックのパーティーを個人的に代々木公園で行うことは、これによりさらに困難となった。しかし、毎年花見の時期には代々木公園内各所で小規模なダンスミュージックのフリーパーティーが行われており、夜は音量を落とすよう促されるが、例外的に黙認される時期もある。
 このように、日本では表立った規制や法は存在しないが、公園など公共の場を使用するゲリラレイヴは、騒音問題を中心に規制されているところもある。日本各地で行われているレイヴについては騒音問題だけでなく、薬物問題にも重点をおき、近年監視の目がよりいっそう厳しさを増しているのが現状である。


2008年11月 代々木公園野外ステージでのTDFの様子


第四回の連載はここまでとします。次回はダンスミュージックのジャンルについてお送りします。